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31.西鉄貝塚線(2) -残された11.0kmの鉄路が向かう先- #福岡

西鉄新宮駅に佇む車止め。この先へと続き、福岡のベッドタウンを走っていたはずの電車は、本当に廃線にならなければならなかったのだろうか。よそ者の自分には、よくわからない。

f:id:stationoffice:20180927091828j:imageかつて津屋崎へと続いていた線路

 

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・地下鉄/JRとの連携に徹する西鉄貝塚線

大混雑の鹿児島本線快速門司港行きを千早で降り、高架下で隣接する西鉄千早駅へ向かう。両者の改札口は隣同士で、全く雨に濡れることなく乗り換えができる。慣れていれば2分もあれば乗り換えられる近さだろう。同じように、快速門司港行きから降りた人が西鉄千早の改札口を通っていく流れもある。快速門司港行きからは30人ほどが西鉄へ向かっただろうか。

f:id:stationoffice:20180925011912j:imageエスカレーター完備の高架駅。地下鉄直通用のホーム延伸準備もある
f:id:stationoffice:20180925011909j:image JRと同一駅だが「西鉄」がつく

f:id:stationoffice:20180925012034j:image上り貝塚行きが到着。20人ほどが乗った

JR→西鉄への流れがそこそこあったので、下り新宮方面への帰宅の流れの方が強いかと思ったが、意外と貝塚行きへの流れもあり、ほぼ拮抗していた。千早から貝塚へは僅か2駅で終点なので、貝塚行きに乗った乗客はほぼ地下鉄箱崎線への乗り継ぎ利用と見ていいだろう。地下鉄は6両編成・7〜8分間隔、西鉄は2両編成・15分間隔と輸送力にだいぶ開きがあるが、地下鉄・西鉄は一体的な利用がなされていることがよくわかる。

考えてみれば、JRも平均10分間隔程度での運行であり、15分程度運転間隔が開くこともざらにある。そうした状況であれば、JRと西鉄の本数の差はさほどでもなく、天神方面へは西鉄博多駅方面へはJRと使い分けがなされている状況と言えよう。

f:id:stationoffice:20180925012114j:image下り西鉄新宮行きが到着。上り貝塚行きはすぐに扉を閉めて出発
f:id:stationoffice:20180925012116j:image下り西鉄新宮行きの降車は少ない。JRからの乗換客を乗せて出発

下り西鉄新宮行きが到着しても降車はさほどでもなく、乗車が殆ど。ドア付近に立客がそこそこいるという状況で、西鉄千早を出発。夕ラッシュでもデータイムと同じ15分間隔なので、JRの快速ほどではないにせよ、なかなか混雑している。乗車率は100%を超えている。

高架駅ながら単式1面1線の香椎宮前(かしいみやまえ)はさほど乗降なし。「香椎宮前、宮前です」という略し方が独特だ。

f:id:stationoffice:20180925012251p:image単式1面1線の高架駅となった香椎宮前

駅名にもある香椎宮はここから徒歩10分だが、香椎宮自体はJR香椎線香椎神宮駅の方が徒歩3分と近い(『香椎神宮』は本来であれば誤記らしいが)。香椎宮前駅近くの国道3号にも「香椎参道口」交差点があり、香椎宮前駅もこの香椎参道に面している。古くからの参拝路だったことが窺える。駅間距離も短く、手前の西鉄千早からは0.5km、次の西鉄香椎へは0.6kmしかない。香椎宮前駅の開業は1959年と、開通から25年も経った後で、香椎宮参拝の便を図って開設されたものであろう。開業当初の蒸気機関車列車と違い、この時代には発進・停止が容易な電車になっていたことも、この短距離に駅が追加された要因であろうと思う。

次の西鉄香椎は千早と違い、JRとは少し離れているため乗り換えにはあまり適さないが、それでも千早と同じくらいの乗降がある。古くからの東区の中心地であり、乗降客自体が多いのだろう。

f:id:stationoffice:20180925012509p:imageマンションに囲まれた西鉄香椎。地下鉄直通に備えホーム延伸のスペースが確保されている

西鉄香椎でも上り貝塚行きと交換。西鉄千早西鉄香椎は高架化されており、地下鉄の乗り入れに対応した構造になっているが、西鉄香椎を出ると昔ながらの地平の線路になる。

f:id:stationoffice:20180925012906p:image西鉄香椎の先で地平に降りる。西鉄香椎まではマンションが多い

次の香椎花園前(かしいかえんまえ)はその名の通り、西鉄グループが運営する「かしいかえん」の目の前にあり、小さな遊園地が駅前に広がっている。しかし夕方とあっては遊園地で遊ぶ子供の姿はなく、むしろ駅近くにある福岡県立香住丘高校の下校の生徒がホームを埋めていた。

f:id:stationoffice:20180925013059p:image高校生が多く待つ香椎花園前。かつての2番線ホームは撤去された
f:id:stationoffice:20180925013053p:image輝きを失った線路が姿を留める

線路は2本あるが、2番線は西鉄新宮〜津屋崎間部分廃止・減便の際に使用停止となっており、ホームこそ撤去されたものの、錆びついた線路が残っているのが痛々しい。ホームを埋める高校生たちが発するエネルギッシュな空気から、2番線だけがぽっかりと取り残されてしまっている。せめて何とか有効利用できないものだろうか。

香椎花園前の次は唐の原(とうのはる)。ここでも上り貝塚行きと交換。この辺りまで来ると天神から30分ほどとなり、駅前でも中低層のマンションか戸建が中心の街並みになってくる。貝塚、千早から乗った帰宅客もだんだんと減ってきて、車内には余裕がでてきた。

f:id:stationoffice:20180925013232j:image全線単線ながら2駅毎に交換列車があるため密度はかなり高い

f:id:stationoffice:20180925013415p:image中低層マンションや団地に囲まれた唐の原

f:id:stationoffice:20180925013620p:image唐の原和白香椎線のキハ47とすれ違った

唐の原を出るとJR香椎線と並んで走るようになり、しばらく並走したところで次の和白。かつて同じ会社の路線であったJR香椎線と接続する。しかし貝塚線が15分間隔なのに対し、香椎線は20〜30分間隔と運転間隔が揃っておらず、特に接続が図られているわけではない。

f:id:stationoffice:20180925013626p:imageマンションに囲まれた和白。左に香椎線のキハ47が見えている

もっとも、和白での接続が有効に機能し得るのは香椎線西戸崎方面←→貝塚線貝塚(天神)方面くらいで、そもそもの需要がそれほどない。それに、その区間はすべて西鉄バスが並行しており、わざわざJR・西鉄・地下鉄の3社の運賃を払う人も少ないだろう。ただ、和白の乗降客数は西鉄が約2,000人に対してJRは本数が少ないにもかかわらず3,000人いる。JRなら香椎で乗り換えれば、博多駅までJRの運賃のみで安く行けるが、天神方面なら西鉄バスだと乗り換えなし。天神方面へは時間に正確な貝塚線と、乗り換えなしの西鉄バスに分かれることが、貝塚線の乗降客数がJRよりも少ない要因であろう。

次の三苫は福岡市最北の駅で、かつての区間列車の折り返し駅。かつて2番線は折り返し列車専用ホームであったが、部分廃止時に上り列車用ホームに変更された。JRとも離れているので、多くの乗客がここで降りる。三苫で最後の行き違いをし、西鉄新宮まで最後の1駅間を走る。

f:id:stationoffice:20180925013932p:image中低層マンションに囲まれる三苫

貝塚から25分、天神からは乗り換え時間含め約40分で終点・西鉄新宮。ここまで残ったのは10人ほどであった。ただ、この1駅間のみ福岡市を外れるため、地下鉄箱崎線との乗り継ぎ割引が適用されない。そのため、例えば天神から三苫までだと470円なのに対し、西鉄新宮まで乗ると530円と、一気に60円も上がる。

西鉄新宮から先、かつて津屋崎へと続いていた線路敷は代替バスが発着するバスターミナルに代わり、その先は宅地開発された。駅に対してやけに新しい終端部のフェンスと、新しいバスターミナルの施設だけが、この駅が終点になってまだ日が浅いことを静かに物語っている。

f:id:stationoffice:20180926013336j:image部分廃止後の終点となった西鉄新宮。新宮町の離島「相島」は島民280人とネコ160匹が暮らす"ネコの島"として知られる
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f:id:stationoffice:20180926013332j:image終端部。道路を跨いだ先はバスターミナル、更に先は宅地となった
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f:id:stationoffice:20180926013326j:image発車を待つ折り返し貝塚行き

代替バス廃線区間のその後

かつて西鉄新宮以遠は日中でも13分間隔で電車が走っていたが、代替となる西鉄バス【5】津屋崎新宮線(西鉄新宮駅〜津屋崎橋)の運転は概ね30分間隔。この代替バスも線路跡を忠実に辿るのではなく、旧西鉄福間駅は経由せず、JR福間駅を経由して津屋崎へ向かうように経路が変更された。このため、鉄道時代は西鉄新宮〜津屋崎間を22分で結んでいたが、代替バスは40分となり、大幅に時間がかかるようになった。

とはいえ、現状で津屋崎から西鉄新宮に出て貝塚線に乗り継ぐ乗客がそんなに多いとは思えず、天神にしろ博多駅にしろ、多くはJR福間駅から鹿児島本線に乗るだろう。そう思えば、この代替バスは津屋崎〜JR福間駅・JR福間駅西鉄新宮駅の役割の違う2系統をまとめただけに過ぎず、それに宮地岳線代替の機能を兼ねさせているだけとも言える。

このようなケースでは、補助金等の兼ね合いで鉄道ルートからの現状に即した逸脱(この場合はJR福間駅に立ち寄るルートへの変更)が許されず、あくまで鉄道代替に拘ってルートが硬直化し、住民の利便性が置き去りになるといった例がある。しかし、宮地岳線の場合は鉄道も代替バスも同じ西鉄による運営のためか、このあたりの扱いはかなり柔軟になされている。

このため、JRからやや離れている津屋崎・宮地岳の両駅からはJR福間駅へのバスが充実し、それ以外の各駅は鹿児島本線の代替駅が開業したことで、かなりの面でフォローがなされたと言えるのは、評価すべき点であろう。時代遅れと化した西鉄がいつまでも残るより、体質改善が進むJRへ移行してくれた方が良い、という住民も多かったはずだ。

しかしながら、廃線区間にあたる糟屋郡新宮町、古賀市福津市はいずれも人口が増加し続けている地域であり、このような地域と福岡市内を結ぶ鉄道でありながら宮地岳線廃線になってしまったというのは、やはり社会的な損失と言わざるを得ない。大都市圏内に含まれ、日中でも毎時4〜5本電車が走っていたところがいきなり廃線になるというのは、全国的にも珍しい事例と言えよう。

特に古賀市JR九州発足前後、鹿児島本線のテコ入れが進み始めたあたりからの人口増加が著しく、JR九州発足前の1985年に約41,000人だった人口が、2015年には約58,000人まで増加している。この間の1997年には人口増加に伴い、糟屋郡古賀町が単独市制施行を果たしている。寧ろ平成の大合併では動きがなく、この時期の単独市制施行は古賀市の伸びを象徴する出来事であり、特筆すべき動きと言える。

福津市も1985年に47,000人だったのが2015年に58,000人に増加。こちらも市制施行を経ているが、これは平成の大合併に伴うもので、2005年に宗像郡福間町と宗像郡津屋崎町が合併して福津市となった。2007年の宮地岳線廃線後、2010→2015年の5年で3,000人の増加を見ており、宮地岳線廃線が人口増の流れに何ら影響を及ぼさなかったのは、廃線後に人口が増えていることからも明らかである。

ただ、鹿児島本線は前回紹介したように混雑が激しい。特急、貨物列車と線路を共用する関係上、快速・普通の増発が難しいという側面もあるのだが、9〜12両編成の快速が走っていながら、それでも激しい混雑に見舞われている。隣を走る宮地岳線廃線になったことでその分の乗客を受け入れ、かつ沿線の人口が増え続けているのだから、混雑しないわけがないのだ。

そして、その貝塚線も最近では利用者が増加傾向にある。1992年に貝塚─津屋崎間全線で33,000人の利用者数を記録したのをピークに、部分廃止前の2006年には19,000人まで減少。部分廃止後の2007年には16,000人となったが(つまり全線の半分近くが廃線になっても16%減にしかならなかった)、2015年には20,000人にまで増加し、部分廃止前の水準以上になっている。

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f:id:stationoffice:20180926012829j:image福岡市の統計より。箱崎線は開通以来ほぼ一貫して利用者が増加傾向にある。貝塚線利用者も部分廃止後の2007年からほぼ一貫して増加傾向にあり、既に部分廃止前の利用者数を上回っている。また、その中でも貝塚西鉄香椎間の利用増が著しいことがわかる。

この結果、2017年度の混雑率は152%(名島→貝塚)と、近畿圏(阪急神戸線:147% 神崎川→十三)や中京圏(名鉄名古屋本線:143% 神宮前→金山・栄生→名鉄名古屋)を抑え、首都圏以外ではワースト1の混雑率となってしまっているのだ。ちなみに前年の2016年度は148%であり、1年で4%も悪化しているというのも、千早をはじめとした沿線の発展ぶりを窺わせる。加えて、部分廃止前よりも多くの乗客が、部分廃止で短くなった路線に乗っているのだから、貝塚口の密度は相当なものになっているだろう。

しかし、この混雑は部分廃止時に行われた6〜7→10分間隔への減便と、3→2両編成への減車が主因といえ、もはや部分廃止前よりも乗客が多い現在においては、混雑を放置していると言わざるを得ない。仮に部分廃止前のダイヤ・編成に戻したとすれば、少なくとも他の福岡近郊路線(西鉄天神大牟田線 西鉄平尾薬院:136%、地下鉄空港線 大濠公園→赤坂:136%)と同等かそれ以下に落ち着く程度ではある。

現状では香椎花園前駅の交換設備が使用停止となっているため、ここがネックとなって10分間隔以上への増発ができない。しかし、関西圏・中京圏をも凌ぐ152%の混雑率を放置していいとは思えない。

西鉄香椎までの暫定直通をすべきでは

さて、貝塚線の混雑緩和ならびに利便性向上策を考えたとき、どうするのが一番良いのかを考えると、「地下鉄車両の西鉄香椎までの直通運転」ではないかと思う。「地下鉄←→貝塚←→西鉄香椎」の直通電車と「西鉄香椎←→西鉄新宮」の区間列車が、西鉄香椎で接続するといったイメージだ。

直通運転に際しての最大の課題は、貝塚線箱崎線の輸送力に大きな開きがある点。貝塚線は2両編成なのに対し、箱崎線は6両。単純比較で3倍である。混雑緩和だけを解決するならば、貝塚線を3両編成に増強すれば混雑率は100%程度に落ち着く計算にはなるが、それだと末端区間の輸送力が過大になってしまう。

現在の貝塚線の混雑は千早の開発に伴うもので、貝塚口に偏っていると言える。香椎宮前西鉄新宮の乗降客数は、部分廃止後は概ね横ばいか微増で推移しているのに対し、千早は3,100人→5,700人、名島1,600人→2,900人と大きな伸びを見せている。従って、混雑緩和策は全線でなく千早近辺に重点的に手を打てば、小さな投資で効果を挙げられると言える。

そして、西鉄千早西鉄香椎間の連続立体交差化が2006年に完了しており、この際に地下鉄車両の6両編成が乗り入れるためのホーム延伸スペースが確保されている。これを活用しない手はないだろう。

従って、現在の貝塚線の混雑が貝塚近辺に偏っていること、および地下鉄直通のためのホーム延伸が準備されていることの2点を踏まえると、地下鉄車両の6両編成を西鉄香椎まで直通させ、西鉄香椎で2両編成の線内折り返し列車にホーム対面で接続とするのがベターではないかと思う。西鉄香椎のホームは島式1面2線であり、接続を取るには適した構造になっているのも好ましい点だ。

こうすることで、貝塚西鉄千早の混雑緩和になるばかりでなく、地下鉄箱崎線〜千早・香椎という線内で最も多くの需要を持つ旅客動向に合わせた運転系統になる。ただ、全線直通ではないため、香椎花園前西鉄新宮間の利用者にとっては、乗り換え地点が貝塚から西鉄香椎へとずれるだけになってしまうが、それでも貝塚西鉄香椎の混雑緩和、および乗り換え距離の短縮(最短60m→3m程度)というメリットは享受できる。

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f:id:stationoffice:20180926013059j:image貝塚駅で向き合う西鉄改札と地下鉄改札。双方は60m離れており、着席のために走る人もいて危ない場面も見受けられる

現行案では、地下鉄が4両、西鉄が2両の直通用車両を用意し、貝塚で分割併合。地下鉄線内は6両、西鉄線内は貝塚で4両を切り離して2両の運転とすることで、西鉄側のホーム延伸をはじめとした設備投資を極力抑制する案となっている。事業費として50億円が見込まれている。

貝塚駅で連結・分離の新案、福岡市営地下鉄・西鉄直通運転計画 : お出かけ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

メリットとしては西鉄側の設備投資が抑えられ、また西鉄新宮までの全線直通が可能なこと、および現行の箱崎線空港線直通電車と同じく西新・姪浜までの直通運転が可能で、中洲川端止まりでなく天神まで乗り換え無しのダイヤを維持できる、といったことが挙げられる。しかし、車両数は増えないため、千早→貝塚の混雑が解消できないのはデメリットである。直通運転による乗り換え解消・時間短縮による誘客効果も見込めるだけに、この案では千早→貝塚の混雑がさらに悪化する懸念がある。折衷案として2+4両ではなく3+3両とする案も考えられなくないが、今度は混雑が酷いとは言えない新宮寄りの末端区間までホーム延伸が必要になる上、日中は輸送力が過大になってしまう。

また、それまで検討されていた案としては、地下鉄・西鉄がそれぞれ3両編成を用意し、直通電車は3両、箱崎線内折り返し列車は6両とするもの。3両編成では地下鉄線内の混雑に対応できないため、天神に折り返し設備を新設するとしていた。

しかし、貝塚線直通と箱崎線内折り返し列車の混雑率の差が甚だしくなるのは目に見えている上、ラッシュ時は3両編成が空港線内に割り込めないために中洲川端止まりとなる可能性が高く、現行の貝塚乗り換えが中洲川端乗り換えに移るだけとなる公算が強かった。また、繁華街の天神に折り返し設備をわざわざ新設するため、事業費も250億円と高額であった。

この点、西鉄香椎までの直通運転とすれば、ホーム延伸はすでにスペースが確保されている名島・西鉄千早香椎宮前西鉄香椎のみで済み、編成も6両となるので千早→貝塚の混雑緩和にも寄与する。西鉄側で用意すべき直通運転用車両は6両編成×3本程度と見込まれ、この案であれば分割併合などの特殊装備も必要ないため、福岡市地下鉄と同じ車両を導入すれば良い。些細に検討したわけではないが、おそらく現行案とそう事業費が変わることはないだろう。

問題としては、並行して走る都心直通のバスを走らせている西鉄の同意をいかにして得るかに尽きる。先述したように、貝塚線利用者と比べてバス利用者は倍近い運賃を西鉄に払ってくれるわけで、そのバスの乗客を奪う提案に、西鉄がやすやすと乗ってくれるとは思えない。

しかし、ここで取り上げなくてはならないのが、バス運転士の慢性的な不足という問題。当の西鉄も、運転士不足を理由としてバスの本数の増発どころか維持ができず、福岡都心でも深夜帯の減便や、渡辺通りなど複数系統が束になる区間の減便などが断行されている。

f:id:stationoffice:20180926010750j:image渡辺通幹線バス」の概要。周辺部から路線が集まる西鉄大橋駅を乗り継ぎ拠点とし、各系統が輻輳していた大橋〜天神間を合理化している。福岡でもバス→バスor電車乗り継ぎのスタイルが始まりつつある

今までは「西鉄バスが運びきれない乗客を貝塚線がフォローしている」体制といっても過言では無かったが、昨今のバス運転士不足という情勢を鑑みると、地下鉄・貝塚線に並行するバス路線についても、その維持は容易ではないだろう。箱崎線貝塚線という既存インフラがありながら、並行する西鉄バスの存在のために、鉄道はその機能を満足に果たせていない。幹線的輸送は鉄道に任せ、バスは鉄道が行き届かない地域や、鉄道では乗り換えが避けられない路線などに注力してゆくべきではないだろうか。

天神直通のバスが当たり前であった渡辺通りのバスですら西鉄大橋駅乗り継ぎに改められたという出来事は、西鉄バスの在り方の大転換を象徴している。貝塚線もそれに続くと考えるのは、早計だろうか。

 

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f:id:stationoffice:20180926142009j:image隣に地下鉄の駅名が加えられる日は来るか

貝塚駅で足早に西鉄と地下鉄の改札口を行き来する人の波を見ていると、貝塚線が北九州まで繋がっていれば、こんなことにはなっていなかったのになあ…と、天神大牟田線との生まれの違いから来る不遇ぶりを思わずにはいられなかった。

傍流の存在が生きながらえるのは、人も鉄道もなかなか難しい。


f:id:stationoffice:20180926142014j:image三方への流れが交錯する中洲川端の乗り換えはとても混雑する
f:id:stationoffice:20180926141938j:image博多方面→貝塚方面への流れも多い
f:id:stationoffice:20180926142004j:image福岡空港へのメインアクセスはやはり便利な地下鉄
f:id:stationoffice:20180926141853p:imageさらば九州

(西九州編 おわり)