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11.総論・沖縄のバス(2) 沖縄県庁のバス再編案解説とS駅私案[沖縄]

・「わった〜バス党」結成!沖縄県庁案のバス改革案を読み解く

バス利用の活性化が課題となっている沖縄。県庁でも本腰を入れた取り組みが進んでおり、一例としては「わった〜バス党」による広報活動が挙げられる。

 

www.watta-bus.com

「わったー」とはウチナーグチで「私たち」といった意味。「私たちのバスの党」というわけだ。CMを県内で放映したり、県内を走るバスにステッカーを掲出したり、バス通勤を奨励する企業やバス利用を応援する個人を「党員」として募ったりと、わった〜バス党による活動は多岐にわたる。

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彼らが沖縄のバスをリードする

中でも県民に触れる機会が多いのは、バスに関する様々なニュースを、わった〜バス党の面々がコミカルに発信するCMだろう。県が製作しているとは思えないほど、ユーモアたっぷりなのが沖縄らしい。「急行バス那覇〜コザ間急行バスの運行や、朝夕の国道58号バスレーン設定など、とかく固くなりがちな政策のニュースを親しみやすく県民に伝えている。朝まで生テ●ビ!を模した討論番組風のCMでは、「急行バスを増便すべきか」「もっとウチナー感を出すべきか」など、短時間ながら結構真剣な議論が(コミカルに)繰り広げられており、見応えがあった。結党6年を迎え、1年間だった急行バスの実証運行が継続となるなど、彼らの努力は身を結びつつある。マニフェスト

もっと乗りやすく

もっとスムーズにもっと安心をもっと分かりやすくもっとスマートにもっと確実にQ1 ぬち癒しぷろぐらむとは何ですか?

わった~バス党の「マニフェスト」。確かにやわらかくてわかりやすい

 

勿論、わった〜バス党による広報活動と並行して、那覇バスターミナルのリニューアルオープン、ゆいレールのてだこ浦西延伸など、バスを取り巻く環境の変化を見据えた、バス再編に関する議論も進められている。

県庁案の中でも、大きな柱は「幹線バス」と「支線バス」への分離だ。先週紹介した新潟市とは異なり、鉄道が殆どない沖縄では中長距離輸送も全てバスが担うため、新潟のような「都市部」と「郊外部」を全て分離するのではなく、県庁案では本線(=国道58号・330号など)を貫く「急行」と、支線直通を含む「各停」への分離が主眼に置かれている。

那覇〜コザ間急行バスを基幹バスとし、宇地泊でコンベンションセンター行き、伊佐で嘉手納・読谷・恩納方面行き、コザで屋慶名・石川方面行きの支線バスがそれぞれ接続するようなイメージが描かれている。 

f:id:stationoffice:20180510211458j:plain第1期のバス再編案(交通結節点整備前)。実線は急行、破線は各停を表す。那覇〜コザ・伊佐間急行バスを柱に、北谷・伊佐・大謝名の各ラインに整理する。この時点では現行系統を維持する。

f:id:stationoffice:20180510211657j:plain 第2期のバス再編案(交通結節点整備後)。宇地泊、伊佐、普天間、コザの交通結節点を整備し、基幹バスと支線バスに分割。各支線からの那覇直通を絞る代わり、各交通結節点にてシームレスな基幹バス(急行)⇔支線バス乗り継ぎを可能にする。現行の長距離系統(120、77など)は交通結節点で折り返しとなる。

また、基幹バス・支線バスの結節点となる宇地泊、伊佐、胡屋〜コザの具体的な整備案まで言及されているのは興味深い。基幹バス・支線バスを縦列停車させ、歩道上を前後移動するだけで乗り換えられるなど、乗り継ぎが極力シームレスとなるよう配慮された設計になっている。国道58号のバスレーン設定等と合わせ、まさにBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)に匹敵する、高度なモビリティシステムを目指していることが窺える。県は本気なのだ。

 

f:id:stationoffice:20180510211836j:plain宇地泊の整備案。牧港立体を活用し、コンベンションセンターへの支線バスは立体下のUターンレーンで転回させる。また基幹バスと支線バスを直列停車させ、前後動だけで乗り換えられるようにする。

f:id:stationoffice:20180511181416j:plain伊佐の整備案。基幹バスの急行・各停、北谷方面、コザ方面を直列停車させ、平面移動のみで4本のバスの乗り継ぎができるようになる。尚、コザ→那覇方面のバスが一旦北上する取り回しの悪さはバス事業者から指摘されており、再設計の可能性がある。

f:id:stationoffice:20180510212236j:plainコザのリニアバスターミナル運用イメージ。交通結節点の用地確保が難しいため、機能を沖縄市中心部に分散させるもの。那覇方面からはコザ(〜具志川BT)まで、石川・屋慶名方面からは胡屋までの運行とし、双方が重複する胡屋〜コザ間での乗り継ぎを自由とする。

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県プランのスケジュール。今後2~3年の間に系統の再編、バスレーンの延長、乗継割引実施等の重点施策が目白押しとなっている。

※上記資料は沖縄県公共交通活性化推進協議会より引用

沖縄県公共交通活性化推進協議会/沖縄県

・モノレールが出てこない県のプラン

ところが、県のプランではモノレールへの言及が殆どない。当事者へのヒアリングの中で沖縄都市モノレール株式会社が登場するだけ、かつモノレールを含んだ再編案の言及もないので、県のプランではあくまでバス単体の改善を考えているということだろう。何しろ、広報活動の主体を担う組織が「バス党」と名乗っているくらいなのだから。

自分としてはモノレールも含んだ再編が不可欠だと思う。沖縄のバスが抱える「複雑な路線」と「定時性の喪失」という2つの問題のうち、県のプランは「複雑な路線の単純化」が議論の主眼となっているように感じる。しかし、路線を単純化したところで、そして急行バスを設定したところで定時性が向上するわけではない。一般道を走行する以上交通信号には従わなければならないし、バス専用レーンといっても路上駐車や自転車・歩行者といった撹乱要因から解放されるわけではない。要は、バスは鉄道のような始終バス専用の走行空間を確保できるわけではないのだ。

そして、最も撹乱要因が多い那覇市内において、専用の走行空間を有しているのがモノレールである以上、バスの短所を補う存在として連携しない手はないと思う。おもろまち駅赤嶺駅にはバスモノ連携を見据えたバスターミナルが用意されていることからも、こうした考えがないわけではないことの現れだ。混雑する那覇市内は定時性に優れるモノレール、郊外であればある程度定時性を担保できるバスとで連携すればよいというのは、ごく自然な考えのはず。

ここからは推論の域を出ないが、モノレールが那覇市内でほぼ完結していることが、県のプランにモノレールが出てこない原因ではないだろうか。

無理からぬ話ではあるが、那覇市内においては那覇空港国際通り首里城という都市軸を結ぶモビリティとしてモノレールが確立した存在であり、バスはモノレールの恩恵が及ばない場所をカバーする補助的なモビリティでしかない。要は、那覇市全体の政策課題として、バスの問題はそれほど大きな問題ではない。しかしながら、那覇近郊の浦添市宜野湾市沖縄市などにおいて、バスは那覇市街への重要な足であり、従って政策課題としても大きな問題になる。ところが、複雑かつ定時性を損なう大きな要因である那覇市内の問題に対して、当の那覇市がそれほど大きな問題として対処しないために、手をつけやすく、自治体の協力を得やすい、宇地泊・伊佐・普天間(宜野湾市)および胡屋〜コザ(沖縄市)の交通結節点整備を主軸として動くことになった…というのが、モノレールが出てこない原因だろう。

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沖縄都市モノレール株式会社の持株比率。株式の99%を上位5位の公的機関が保有するが、沿線自治体の那覇市浦添市を足すと、沖縄県より僅かに低い35%の値になる。那覇市浦添市が首を縦に振らない話は県としても動かせないだろう(出典:平成29年度沖縄県公社等の概要調書の公表) 

平成29年度公社等の概要調書の公表/沖縄県

こうした話は沖縄に限った話ではなく、例えば愛知と三重を結ぶ国道は三重県内に入ると途端に愛知県内より道が良くなる(三重に向かう道路は愛知にとってあまり重要ではないが、三重にとって"名古屋"へ向かう道路は重要)とか、小田急線の複々線化が最も早く完成したのは世田谷区内ではなく狛江市内(狛江市にとって都心へ向かう小田急線は重要だが、世田谷区にとっての小田急線は狛江市にとっての小田急線ほど重要でない)とか、要は都心の問題は郊外の方が重要に捉えるものであるという延長線上に過ぎない。

しかしながら、那覇市内の輻輳が沖縄のバス全体の信頼性を損なっている主因である以上、那覇市も無関心を貫くわけにはいかない。那覇バスターミナルの再開発を契機に、カフーナ旭橋の再開発地区全体が集客を高めなければならない目指さなければならないことであるし、バスの高度化は那覇市にとっても悪い話では全くない。それ以前に、観光客がそぞろ歩く国際通りの交通量を減らし、歩行環境を良くすることは、那覇市にとっても沖縄県にとっても重要な課題のはず。片側一車線の国際通りを、乗客数人の牧志経由のバスが何台も連なって走っている今の状況を放置していいはずがない。

f:id:stationoffice:20180511191029j:image国際通り経由は便利だけども、多過ぎる上に渋滞するために時間がかかりすぎる

以上の点を踏まえ、私案を述べたいと思う。

・バスモノ乗り継ぎを含めた制度設計を

提案の骨子は以下の3つだ。

①バス(直通)・バス⇔バス・バス⇔モノレールのゾーン運賃化
赤嶺駅おもろまち駅てだこ浦西駅の交通結節点整備
③市外線の牧志経由をおもろまち駅折り返しに短縮f:id:stationoffice:20180502212659j:plain
①バス(直通)・バス⇔バス・バス⇔モノレールのゾーン運賃化

ゾーン運賃とは、A⇔B間の移動において、直通バスでも、バス⇔バス乗継でも、バス⇔モノレール乗継でも運賃が同額となる制度のこと。こうすることで、時間がかかってもいいから乗り換えなしで行きたい人(高齢者など)、急行バスと支線バスを乗り継ぐ人、渋滞を避ける為バスとモノレールを乗り継ぐ人など、様々なニーズに、様々なチャンネルで応えられるようになる。西ヨーロッパの都市では「運輸連合」を交通事業者間で組織し、協定を結ぶことで運賃収入を各事業者へ按分する仕組みを整えているところが多い。

f:id:stationoffice:20180511191151j:imagef:id:stationoffice:20180511191223j:imageドイツ・デュッセルドルフUバーン。市内では地下鉄、郊外では路面電車、田舎では普通鉄道と様々な区間を直通運転する不思議な乗り物。モードがコロコロ変わるが、同一地点間の移動であればゾーン運賃制であるため、電車でもバスでも路面電車でも乗り換えても直通でも運賃は同額だ

これを那覇市でも応用すべきだと考える。それに際し、重要になるのがICカードの導入である。OKICAは既にバス大手4社とモノレールが導入を済ませており、連絡定期券の発行など共通化も進められている。現金でのゾーン運賃化は運賃収受の手間がかかりすぎるので取り扱わないにしても、OKICA利用時に限れば技術的にはそこまで難しくないはず。

後は運賃収入の按分方法であるが、現行制度上のバス・モノレール乗継に比べると減収になってしまうのが課題だ。

しかしながら、モノレールには隣駅まで150円となる「おとなりきっぷ」が設定されている。このおとなりきっぷは2016年の値上げまでは100円であったため、市内短距離利用の掘り起こしに大きく寄与していた。このおとなりきっぷ制度を踏まえ、バス・モノレール乗継利用に対してはモノレール会社へ100円を按分すれば十分だと思う。以下の例をご覧いただきたい。

例:牧港→安里

●バスのみ・・・450円・29分

●バス・モノレール乗継(おもろまち経由)・・バス380円+モノレール150円(おとなりきっぷ)=530円・28分(乗継3分)

バスとモノレールを乗り継いでも、バスのみで行っても所要時間は互角な上、おとなりきっぷが100円であれば30円差にまで縮まる。バスの定時制の無さや国際通りの混雑を思えば、利用者の掘り起しに繋がるのは確実だ。加えて、大手バス4社の運賃は同一区間であればほぼ揃えられている上に鉄道(モノレール)会社は1社のみであることから、運輸連合結成による調整は本土よりもやりやすいはず。ソーン運賃化は、沖縄の公共交通復権のカギになると思う。

赤嶺駅おもろまち駅てだこ浦西駅の交通結節点整備

上記のゾーン運賃化の効果を高めるにあたっては、もちろんバスモノ乗継のシームレス化が不可欠になるのは言うまでもない。

特に、おもろまち駅はバスモノ乗継を見据えた駅前広場の整備がなされているが、天久・安謝方面への出発・進入にしか対応しておらず、駅前広場を通り抜けることができないのはいかにも使い勝手が悪い。先般紹介した【7】【8】首里城下町線などは、おもろまち駅前広場発着にするために、逆「コ」の字を描くような大回りになっているのだ。この駅前広場を国道330号へ貫通させ、おもろまち駅折り返し便も那覇BT発着便もおもろまち駅を経由させるようにすれば、現状は数少ないおもろまち駅行きを待つしかないのと比べて大幅な利便性向上になる。駅を経由するバスの本数を増やし、エスカレーターや雨に濡れない上屋の整備を通し、シームレスな乗り継ぎ環境の整備を目指してほしい。

併せて、日本最南端の駅・赤嶺駅の広場を本島南部・糸満方面への交通結節点として、てだこ浦西駅をコザ方面最寄駅としての整備を進めてほしい。那覇都心部へ直行するバスを減らし、乗継メインとなれば、公共交通全体の速達性・定時性の向上に繋がるはずだ。

③市外線の牧志経由をおもろまち駅折り返しに短縮

県のプランで国道58号経由の急行バスを定時性の高い久茂地経由に統一することになっており、これには自分も賛成する。しかし、各停バスは牧志経由で残ることになっている。これをもう一歩踏み込み、①②を踏まえて市外線の牧志経由はおもろまち駅折り返しに短縮してよいと考える。都心直行は基幹バス(急行)に任せ、牧志近辺への需要はおもろまち乗継のモノレールにリレーするといったイメージだ。それでもなお残る国際通りのバス需要に対してはおもろまち駅等での市内線への乗り継ぎで十分カバーできる。定時性を損なう上、乗客が多いわけではない牧志経由の効率化を通し、余力を振り向ける必要がある。

・沖縄のバスが日本のバスをリードする

以上3点が私案である。日本一バスに頼る沖縄県であるからこそ、バス主導の施策を打ち出せるのではないだろうか。日本の公共交通はどうしても鉄道主体になるため、BRT(バス高速輸送システム)や基幹バスの導入などに留まり、システム面まで至らない。新潟市にしても連接バス導入と系統再編に留まっていて、「連接バス=BRT」といった風潮すらある。名古屋市の基幹バスやガイドウェイバスが日本で最もBRTに近い存在ではあるものの、名古屋市の都市規模からして交通の主役はやはり地下鉄・名鉄・JRであり、よく論壇で取り上げられる基幹バス新出来町線や名古屋ガイドウェイバスにしても、都市交通の主役ではない。

しかし、鉄軌道がゆいレールしかない沖縄県は、広域交通・那覇以外の市内交通ともバスが担う。それであるからこそ、上に挙げたようなドラスティックな策を打ち出してほしい思いがある。「駅のようなバス停」と言えるほど、バス停の位置が沖縄の町中ではかなり意識される。そのような場所は鉄道が張り巡らされた本土にはあまりない。

f:id:stationoffice:20180511190957j:imageカフーナ旭橋の再開発地区を読谷行きのバスが行く。本土よりも遅くまで沖縄のバスは走る

「バス党」が活躍するほど、ある意味バスの存在感が県民の中に(低まっているとはいえ)ある沖縄に、日本のバスをリードしていってもらいたい。

もっと便利になるために頑張る沖縄のバスに、エールを送ろう。

 

(つづく)